つい先日のお話です。日本のことをフランス人に話していたときのこと
「日本では、赤ちゃん用の粉ミルクを70℃以上のお湯で作るのよ。」
と説明したらビックリされました。
「子供を殺す気なの?70℃なんて殺菌する温度だわ。」
フランスでは、水(それもフランスではミネラルウォーターが推奨されてます)で粉ミルクを溶かし、そのまま冷たいままあげるか、そこから子供に飲ませる37度ぐらいの温度まで温めてあげます。なので、ミルクを70℃なんて高温にすることはないのです。
「いやいや、そのままあげるのではなくて、水を加えたり、哺乳瓶ごと冷やしたりして子供が飲める温度にしてからあげるのよ」
「( ;゚д゚)そんなこと欧米ではどこもやってないわよ!それは100年前の方法よ!」
と言う。
う~んそうでしょうか。。。?
どちらかと言うと私から言わせれば、
70℃以上のお湯を使う方が安全な選択だと思うのです
\(◎o◎)/
なぜ、日本は70℃以上を使うのか?理由はサカザキ菌
日本は、一世紀前の方法で調乳しているわけではなく、理由があるから70℃以上のお湯を使うようガイドラインを出しています。
日本のガイドラインは、2005年に世界保健機関(WHO)から出された「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン」に準じて作られたもの。
WHOのガイドラインの中で、サカザキ菌とサルモネラ菌が粉ミルクで一番懸念される微生物と結論付け、
粉ミルクの製造環境に多く存在し、粉ミルクに触る器具からでもどこからの菌の混入もあり得るサカザキ菌対策には、粉ミルクを溶かすのに70℃以上のお湯を使うことが効果的としました。
サカザキ菌に感染すると、「敗血症」や「壊死性腸炎」をおこす可能性がり、症状が重くなると「髄膜炎」を併発することもあります。
感染するのは稀だけど、感染すると新生児の致死率が高い菌なのです。
新生児の髄膜炎に関係しているとして1958年に初めて問題視され始めたサカザキ菌ではあったのですが、そこまで発病率も高くない稀なことだったのであまり名前も出てきてなかったのが、なぜ、WHOがガイドラインを出すに至ったのか?その背景の一つに大きな出来事がありました。
それはフランスで発生。
2004年10月から12月にかけてフランスで起こったサカザキ菌の集団感染
4人が感染(うち2人が髄膜炎で死亡)という事件です。
Pregestimilと言うメーカーの粉ミルクが原因とみられ、当時はさかんに報道がされており粉ミルクは回収に至りました。
その後2005年に世界保健機関(WHO)及び国連食糧農業機関(FAO)により「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン」が出され
日本は2007年と言う早い時点で、粉ミルクの調乳に70℃以上のお湯を使用することを徹底。
元々50℃で作っていたというのですんなり浸透したのかもしれませんが、現在ではいろんなところでお湯も提供してもらえる体制もかなり整い、すっかり定着しています。
ちなみに、日本では粉ミルクによるサカザキ菌の感染はゼロだそうです。(器具からの感染例は一件あるようですが)
欧米はと言うと、イギリスは2013年1月28日に、70℃のお湯にすることを徹底したようです。
昔はイギリスでも、フランス同様に水を使っていて、まだ国民全体への十分な浸透はしてないかもしれませんが、でも現在SMAと言うメーカーの粉ミルクの作り方を見ればちゃんと70℃以上のお湯を使うよう言っていることが見て取れます。
あと、マレーシアや香港なども70℃以上のお湯を使うそうです。
しかし、不思議なのがフランス。
フランスの現在の指導内容
事件を受けて、フランス食品衛生安全庁(AFSSA)が哺乳瓶の準備及び保存についての衛生勧告を作成し、2006年4月4日にはサイトにアップしているのですが。。。
70℃のお湯のことは書かれていません。
製造過程で菌を減らすようにするとか、病院の管理体制をしっかりするとか書かれているだけ。確かに、フランスで起こった集団感染の原因が管理のまずさだったのでしょうがないのかもしれません。
しかし、その後のいろんな新聞記事にも調査結果にも70℃以上のお湯を使った方がいいよ、と書かれている。
例えば
・Cronobacter, pas si rare que ça Le 27 août 2014
クロノバクター属*は稀なことではない。
http://www.journaldelenvironnement.net/
*クロノバクター属:2008年から使われるカサザキ菌の新名。いろいろな文面にカサザキ菌という名称が使われているので、このブログの記事本文ではカサザキ菌で統一しています。
・Laits en poudre : les reconstituer avec de l’eau à plus de 70 °C 14/05/2010
粉ミルク:70℃以上の水で調乳
http://www.lepoint.fr/
・Caractéristiques et sources de Cronobacter spp
クロノバクター属の特徴と発生元
https://www.anses.fr/
だからもちろん知っている人は知っているから、いつかは変わるんだろうと思いきや。
2013年に出されたフランスの厚生省のミルク取扱い説明書にも70℃以上のお湯については何も書かれおらず、水を使う旨が書かれています。
http://www.sante.gouv.fr/
すごい不思議(。´・ω・)?
記載されている文書を見つけれなかったのであくまでも想像ですが、フランスは「製造工程で減菌」することでOKとしているのかも?しれません。
一方アメリカでは
アメリカは2012年に疾病管理予防センター(CDC)のサイトに70℃以上で粉ミルクを作ることが記載されました。
というのも2011年に、ウォールマートで売られていた水で調乳と説明されていたEnfamilのミルクを飲み、サカザキ菌で乳児が死亡した事件があったからだと思われます。
その2012年の裁判で
「J. Roberto Moran, M.D.が2002年に、粉ミルクは減菌してないので病院では粉ミルクを使用せず、液体ミルクを使ってくださいと警告していた。」
「Mead Johnsonは、70℃のお湯を使えば安全という重要なことを、公表することと教育することを拒否している」
というようなことが問われていました。
アメリカでもすでに2002年の時点で粉ミルクに危険性があると言うことは認識されているけど、水を使うようにとしか記載されてないんですね。
現在でもEnfamilのサイトを見ると水を使う旨が記載されています。
http://www.enfamil.com/products/routine-feeding/enfamil-newborn
水を使いましょうと言う理由が分からない
2004年にフランスで起こったサカザキ菌集団感染の事件は実はよく覚えています。
というのも、調度息子が2004年に生まれたので、特に子供に関する情報に敏感な時期だったからです。
しかも、フランスでは働く女性が多いせいか当時哺乳瓶派が多かった中、私は母乳派で、散々義母に文句を言われ続けていました。
そんな中、流れてきた粉ミルクのニュース。
粉ミルク危ないじゃん、母乳で育てられるならやっぱり母乳の方がいいよね。。と思ったものです。
そして、娘が生まれた2006年になると母乳推進が始まり、産科に母乳を指導できる助産婦が配置されるようになっていました。
今見ると、フランスのGuigozやNesleなどの粉ミルクを売っているほとんどのメーカーのサイトでは、2001年5月のWHOのガイドで、最適な乳児の成長、発達及び健康を達成するためには、誕生後6ヶ月間は母乳のみで育てることが好ましいと書かれていることにのっとり、生後6か月までは母乳を推奨すると言っています。
では、何故、70℃のお湯のことについてはWHOを参照しないのか?
○ 殺菌を必要としない製法か何か取られているから大丈夫なのか?
○ でも生産過程で粉ミルクの除菌・減菌に成功しているとしても、日常生活や器具からもサカザキ菌が入る可能性があるので、やっぱり水では100%安全な方法ではないのではないのだろか?
○ まあ、日本とかに比べてたらフランスは暑くも湿気もないしリスクが少ないから大丈夫なのか?
○ 知っているがしないのか?それとも知っていてもしないのか?
○ 70℃以上のお湯にするように指導することで何か他に不都合なことがあるのか?
この辺りがよく分かりません。
もし、はっきりとした理由が見つかれば、ここに追記しようと思いますが、知っている方がいればぜひ教えて下さい。
ということで、
フランスで、フランスの粉ミルクを使って、フランスのミネラルウォーターを調乳する分には、そこまでリスクはないかもしれないけど、でも、
とりあえず70℃以上でミルクを作る方法を知っていれば、もしかしたら世界中どこ行ってもサカザキ菌については安心かもしれないよ。水で大丈夫!という訳では決してないことは知っておいた方がよく、70℃以上での調乳方法の方が安全なんだよ。
と思うのですがどうでしょうか?
関連リンク
○ 厚生省 乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドラインについて
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/070604-1.html
○ 国連食糧農業機関(FAO)により「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン」フランス語
http://www.fao.org/docrep/009/y5502f/y5502f0a.htm
○ フランス食品衛生安全庁(AFSSA)が哺乳瓶の準備及び保存についての衛生勧告 フランス語
http://www.invs.sante.fr/publications/2006/infections_e_sakazakii/infections_e_sakazakii.pdf
○ アメリカ疾病管理予防センター(CDC)英語
http://www.cdc.gov/features/cronobacter/
○ Brown & Crouppen Files Suit over Infant Death and Illness Linked to Contaminated Formula
http://www.businesswire.com/
ところで、もう一つ粉ミルクについて思う疑問
ちなみに、もう一つ不思議なのが、
日本では180mlと言ったら出来上がりのミルクの量なのに、
フランスや他の国では飲ませるミルクの量って書いておきながら実際は、180mlと言うのは入れる水の量。水と粉ミルクを混ぜると210mlとかになっちゃう。。。
じゃあ、180mlと言われた時、母乳ではどうすればいいの?といろいろ考えてしまいます。
日本が細かすぎるのか?他の国がアバウトすぎるのか?考え方の違いなのか?
なんなでしょうね。。。この違い。。。
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